新型コロナウイルスの波が、なかなか収まりませんね。ワクチン接種が進めばすべてが解決されるのか分からない中で、さまざまな医療の必要性は増えども減りません。筆者も年々体にガタが来始めているようで、昨年からコロナ禍中にもかかわらず、さまざまな医療機関にお世話になり続けています。
海外では歯科治療が高額になることも
ちょうど取れやすい年ごろなのでしょうか。奥歯の銀色の詰め物が取れたのをきっかけに歯科医を受診し、以来、何度もお世話になりました。支払いのたびに、デンマークと比べて、「日本は歯科治療費が安いな」と痛感していました。これは日本の歯科治療そのものが安いというよりも、原則3割負担という医療保険の適用を他の医療とほぼ同じように受けられるからです。日本人にとっては当たり前のことかもしれませんが、外国では、歯科治療は他の医療と同列には扱われないことが多いのです。
たとえば、デンマークの隣国・ドイツでは、むし歯の最も安い詰め物などであれば医療保険が適用されて高額にはなりませんが、たとえば「親知らず」を抜くとしたら、1000ユー口(日本円で約13万円)以上にもなる可能性があります。そのため、歯科治療のために、近隣の東欧諸国やオーストリア、東南アジアに治療に行くこともあるそうです。
歯科治療だけは民間の医療保険に加入も
デンマークでも、通常の医療費は、がんでもどんな病の治療でも無料で、さらに外国の病院などでなければ手術や治療ができない場合でも滞在費を含めて無料です。しかし、歯科治療については、 「むし歯は病気ではない」 「歯は自己責任」という昔からの伝統を背景に、一般的な治療は6割が自己負担になります。レントゲン(X線)撮影はさらに7割負担です。
筆者もデンマークにいるときに何度か、歯の詰め物が取れてお世話になったことがありました。デンマークの片田舎の歯科医でもあるためか、銀色の詰め物は一般的ではなく、問答無用に一番安い白の詰め物(「レジン」と思われる)で詰め直されました。その歯科医にとってはよほど珍しかったのか、筆者の取れた銀色の詰め物を他の職員に「日本は精巧なものを作る」と見せびらかしていました。筆者が口を開けたままで何も言えないのをいいことに。そのときの治療費は、およそ800kr (デンマーククローネ、約1万4000円)だったと記憶しています。
「歯科治療だけはいざというときのために、民間保険に入るのが普通よ」デンマーク人の知人が言うように、デンマーク人にとってもこの治療費は高いため、歯に関しては民間の医療保険に加入して、その保険で治療費をまかなうことが多いです。筆者は永住ビザは持っていましたが、永住するつもりもなかったのでそこまでの必要性を感じず、民間保険に加入していませんでした。しかしその結果、歯医者に何度も行くはめになり、加入していればもっと安かったかなと思っています。
国民学校の授業中に校内の歯科を受診
ただし、さすが福祉で名だたる国、デンマークだけに、 ドイツのように万人に歯科治療のお金がかかるようにはしていません。デンマークでは、 成人年齢の18歳になるまでは歯科治療費は無料です。小学校に相当する国民学校のときから徹底的にむし歯を予防し、むし歯を治し、健康な歯を持つことが国民の健康には効果があるという考えがそこにあります。そのため、基本的な歯科治療をはじめ、予防のためのフッ素塗布、歯の矯正までも含めて、18歳になるまでに無料でやってしまうのがデンマークでは一般的です。
こうした歯科治療を容易にするために、なんと国民学校には歯科が併設されています。デンマークで家族で暮らしていた時、国民学校に通っていた長男とある晩に話していると、「きょうは歯医者行ったよ」と長男が言いだしました。歯医者に行く予約もしていないのにおかしいなと思い、「どこで?」と聞き返すと、「授業中に自分が呼ばれて学校の中の歯医者に」と答えました。長男の通っていた国民学校に併設されている歯科で、歯の健診を受けていたのでした。授業と歯のどちらが大切かというと、―生に関わる歯なのでしょうね。
医療ツーリズムが当たり前の光景に
筆者の家族は現在、日本に住んでいますが、最近は長男も次男も、歯の矯正が必要と診断を受けており、日本では100万円前後もかかる矯正代のダブル出費を目の前にして頭を抱えています。今になって、デンマークに暮らし続ければよかったかな、と後悔が頭に浮かびます。また、65歳以上の高齢者や心身に障害を持つ人などは、毎月約50kr(約900円)の負担で基本的な歯科治療をそれ以上支払うことなく受けることができます。
18-65歳までの自分で働ける時期は、―定程度の自己負担は発生しますが、それ以外は無料か廉価で治療が受けられるわけです。やはり福祉が充実している「幸せな国」ならではです。
とはいえ、デンマークでも成人の時期の歯科治療は高額で、 ドイツのように近隣諸国や東欧へ「治療旅行」に行くこともあります。日本ではあまり―般的ではない医療ツーリズムが、ヨーロッパでは医療技術だけではなく、安い医療を求め、当たり前の光景なのです。
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