1.コロナと在宅医療
朝日新聞 デジタル 5月25日 |
地域の重症患者や高齢者を支える在宅医療。コロナ禍にあって、医師や家族はどう患者に向き合っているのか。都内で訪問診療をしている医師に同行した。
「顔色もいい。元気そうですね」。えびす英(ひで)クリニック(渋谷区)の松尾英男医師が寝たきりの男性(50)に語りかけた。男性は先天性の脳症で1人では生活ができない。両親が看護してきたが、28年前に父親(77)が脳梗塞で半身不随に。今は母親(75)がひとりで夫と息子を見ている。2年前、母親がインフルエンザにかかったときは大変だった。「365日お願いしているヘルパーもケアマネもお願いできない。今同じことを起こしたらと思うと、本当に怖い」。ハンドジェルを家のあちこちに置いている。「買い物の外出も最小限。先生が来て、会話してくれるとほっとします。」
松尾医師の治療は、点滴や採血、気管カニューレの管理など、疾患によって処置は異なるが一番気を配っているのは「患者と家族の精神的ケア」だ。患者を診察するときは、家族と話す。いま何が不安なのか、雑談から見えてくることも多い。ただでさえ家族が在宅で見るのは大変なのに、新型コロナウイルスの感染拡大でデイサービスが受けられないと介護者も休めない。松尾医師は「外出の機会を失うことは、患者さんだけでなく家族も大変な思いをしているということです」と話す。
病院のホワイトボードには1週間の往診予定がびっしりと埋まっている。松尾医師は定期的な訪問診療のため、1日に15軒ほど車で回る。このほか土日も含め、24時間対応の緊急往診も行う。「心配なときに電話がつながり来てくれた。それだけで家族は安心するし、信頼関係も築ける」と思っているからだ。
90人ほどの患者の中には老老介護の夫婦もおり、1割は独り暮らしの高齢者という。日々の食事を運んでもらうなど、どうしても誰かに頼らざるを得ない。基礎疾患があると感染したときに重症化する恐れがあるため、不安と隣り合わせの生活を強いられている。CTやPCR検査など、訪問診療で出来ない検査や治療もある。緊急往診はするが、肺炎症状があり、コロナの疑いが強い場合、これまでのように継続して訪問診療できなくなってしまった。コロナ患者に対応できる病院につなげなくてはいけない。一方で、終末期医療の入院患者が家族と面会できず、訪問診療へ切り替えるケースも出てきた。
訪問診療の患者は長期間闘病している人が多い。どんな治療をし、最期をどこで迎えたいか、本人や家族と何度も話し合う。松尾医師も年間30人ほど自宅で見とっている。病院なのか、家なのか。開業以来19年間、気持ちが揺れ動く家族に寄り添い、それぞれの歴史を見てきた。松尾医師は「今回のコロナが厳しいのは、容体が急変して家族が数日の問に判断を迫られること」と言う。「死生観を考える猶予もない。自宅で長く闘病し、最期は穏やかに家で迎えたいと思っていた人の思いがかなわないのは辛い」。だからこそ、感染者を出さないよう日々気を配っている。
|
2.高齢者医療費2割、最終報告12月に
毎日新聞 5月23日 |
政府は22日、「全世代型社会保障検討会議」(議長・安倍晋三首相)の最終報告について、当初予定の今夏から12月に延期することを明らかにした。新型コロナウイルス感染症の流行の影響で議論が進んでいなかったため。75歳以上の医療費窓口負担を2割に引き上げる関連法案の提出も、今秋の臨時国会から2021年通常国会に遅れる見込み。
同会議が19年12月にまとめた中間報告は、(1)75歳以上の医療費自己負担を一定以上の所得があれば1割から2割に上げる(2)紹介状なしに大病院を外来受診した際に初診で5000円以上の追加負担を求める制度の金額を上乗せすると明記。(1)の所得範囲や(2)の金額などを20年夏までに決める予定だった。
|
3.オンライン診療、LINEに続け 新興勢が参入
日本経済新聞 電子版 5月22日 |
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、新興企業を中心にオンライン診療分野への参加が相次いでいる。台風の目となるLINEのほか、医療関連企業も手がける計画だ。4月に初診でも診療が可能になり、オンライン診療を届け出た医療機関が従来の10倍以上になったことが背景にある。多様な企業の参入で患者側の選択肢が増え、医療現場に変革を促しそうだ。
規制緩和で風向き変わる
「当初は数年後の参入を目指していたが、この数カ月で一気に風向きが変わった」。LINEヘルスケア(東京・新宿)の室山真一郎社長は親会社のLINEなどと協力し、オンライン診療専用のサービス作りを急ピッチで進めている。同社は2019年12月にチャットで医師に健康相談ができる保険適用外のサービスを始めていたが、新型コロナの影響で相談が殺到し、現在は月10万件ペースで利用されるようになった。4月に初診利用が解禁されたことでオンライン医療の関心が高まり、参入を一気に前倒しした。8千万人以上が日常的に慣れ親しむ対話アプリ「ライン」を入り口に、利用者の拡大を狙う。
オンライン診療が初めて公的保険の適用を受けた18年当初は一部の慢性疾患の患者に限られるなど要件が厳しかった。ただ院内感染のリスクを減らせる利点から、政府は2月から徐々に条件を緩め、4月13日から初診を含め全面的に解禁した。厚生労働省によれば、5月上旬時点でオンラインや電話での診療に対応する医療機関数は全国で1万3千施設に達した。電話も含むため一概に比較できないが、18年7月時点の10倍以上だ。「オンライン診療を頼まれることが増えて本格開始に踏み切った」という医療機関は多い。
「時限措置」延長に期待
政府は当初、時限措置としていたが、5月には緊急事態宣言の解除後も続ける方針を示した。サービス提供企業には、対象となる病気に制限をつけないことや初診も保険対象にするなどの措置が継続されるとの期待が高まったこともあり、参入が相次ぐようになった。産業医派遣などを手掛けるDYM(東京・品川)もそんな1社だ。同社の水谷佑毅社長が設立する新会社を通じ、6月にもオンライン診療に参入する計画。企業向けに提供し、従業員の健康管理などを助けるサービスに機能を搭載する。水谷社長が経営する医療法人の顧客を中心に開拓し「1年後に1500社の利用を目指す」(同社)。
参入組の中には、薬局との連携で患者の利便性を意識した企業もある。薬局向けシステム「電子お薬手帳」を手がけるホッペ(東京・港)は、医師20人を登録し5月からスマホアプリなどからオンライン診療を利用できるようにした。井上智喜社長は「診療から服薬指導と薬の配送までオンラインで一括提供できる」と話す。同社のアプリは既に15万人の患者と4800の薬局に使われている。井上社長は「年内に診療所100カ所程度に参加してもらい全国にオンライン診療を提供したい」と話す。
このほか、医師の救急往診支援のファストドクター(東京・新宿)も4月に参入。さらに女性向け医療相談のアナムネ(東京・中央)も5月中にプラットフォームの提供を始める。アナムネの菅原康之代表は「流行の第2波、第3波を警戒せねばならず、オンライン診療が求められる状況は続く」とみる。年内に数十の診療所に参画してもらい、全国へのサービス提供を目指す。
|
4.免許ない医・歯学生も医療行為OK 厚労省が法改正へ
朝日新聞 デジタル 5月15日 |
免許をもたない医学部や歯学部の学生も、患者に医療行為をできるようにする。厚生労働省は13日、医師や歯科医師の養成に向けた新たな仕組みを整える方針を固めた。指定された試験に合格することを条件に、学生が「実習」の枠組みで診療に参加できるようにする。今後、医師法と歯科医師法の改正に向けた準備を進める。
医師法と歯科医師法では、無免許での医療行為は違法になるが、実習として医師らの指導のもとでする場合は違法性がないと解釈されている。そのー方で、現在の医師、歯科医師の養成課程では、大学5〜6年目に専門教育を受けるが、見学が中心で実際に診療に参加して医療行為を学ぶ実習は十分に行われていないことが、課題とされてきた。また、国家試験を挟んだ卒前の2年間(大学5〜6年目)と卒後の2年間の臨床教育に連続性がなく、内容に重複があるなどの指摘もあった。医学部、歯学部での医療現場の実習と、卒後臨床研修を通じ、基本的な診療能力を早く身に付けられる切れ目のない養成課程の必要性が指摘されていた。
これらを踏まえて厚労省は、全国の大学で行われている共通の試験と、模擬患者を使った技能試験に合格した医学生.歯学生を「スチューデント・ドクター」「スチューデント・デンティスト」として法的に位置付けたうえで、診療に参加できるようにする。現在は民間で行われているこれらの試験も、公的なものとする。
学生が医療行為をする場合は、患者から同意を得ることを必須とする。また医療行為は必ず医師の指導監督のもとに行う。学生が行える医療行為は、指導する医師が学生の能力や患者の状態から判断するとしている。医学生の場合は気管内挿管や尿道カテーテルの挿入と抜去、注射や点滴の薬のオーダーなど、患者への負担が大きい行為も想定している。
|