1.薬が効かない耐性菌で死者1千万人?抗菌薬をどう使う
10月13日 朝日新聞 デジタル |
「風邪ですが念のため」。こんなふうな抗菌薬の処方の仕方が、急速に見直されてきています。抗菌薬は風邪に効かず、副作用のリスクがあります。さらに、不適切な使い方が世界的な脅威となっている耐性菌をうみ出し、増やすことにつながるためです。細菌は、千分の1ミリほどの微生物です。腸管出血性大腸菌やジフテリア菌のように毒素を出す有害な菌もあれば、口や腸の中、皮層の上に普段は無害の常在菌もいます。常在菌でも病気で抵抗力が落ちたり、けがや誤嚥で菌が別の場所に入り込んだりすると、重い感染症の原因になります。
20世紀に続々と登場した抗菌薬で、感染症の治療は一変しました。抗菌薬は高度医療の立役者にもなっています。手術や、体に異物が入る人工心肺、カテーテルといった処置は、感染の危険と隣り合わせだからです。 風邪やインフルエンザを引き起こすウイルスと違い、ヒトも細菌も細胞からできた生き物です。ヒトへの害を抑え、いかに高い効果で病原菌を倒せるかが抗菌薬のカギになります。
英国の医師、アレクサンダー・フレミングが1928年に発見したペニシリンは、細菌の細胞壁を標的にします。細胞壁は網状に組まれた分子のあつまりで、ヒトにはありません。ペニシリンの「βラクタム環」という部分が、細胞壁を作る分子にくっついて妨害し、細菌は壁を失って壊れます。ペニシリンの実用化は40年代。しかし、この頃には耐性菌の存在が明らかになりフレミングは45年のノーベル医学生理学賞受賞時に懸念を口にしていました。
耐性菌は、①抗菌薬の成分を壊す②薬が標的とする部分を変化させる③細菌の中に薬を入れない④薬を外へくみ出すといった能力を、もともと持っていたり、獲得したりしています。抗菌薬には、使えば使うほど、抵抗力の強い菌が生き残って増えてしまうというジレンマがあり、国立感染症研究所の菅井基行・薬剤耐性研究センター長は「薬の開発と耐性菌の出現は、いたちごっこが続いてきた」と指摘します。
しかし、細菌との競争は、様相が変わりつつあります。新薬の開発が先細る一方、ペニシリンだけでなく他のタイプの薬も効かない多剤耐性菌が現れ、病院などで集団感染する例が出ています。特に、多剤耐性アシネトバクターや、抗菌薬の「最後の頼みの綱」とされるカルバペネムが効かない腸内細菌は、脅威とされます。
2014年、経済学者ジム・オニール氏の報告書が、世界に衝撃を与えました。がんによる死者820万人に対し、薬剤耐性による死者は現状では低く見積もって70万人。しかし、何も対策をとらなければ、50年には1千万人に達すると推計しました。国立国際医療研究センターで、薬剤耐性問題に取り組む大曲貴夫・AMR臨床リファレンスセンター長は「新たな耐性菌を新薬で治療しにくくなっている」と懸念します。
こうした中で、世界各国は対策を急ピッチで進めています。日本も16年に、20年での行動計画をつくり、対策を強化しました。国内では、カルバペネムが効かないといった最も問題のある耐性菌はまだ少ないものの、本来は必要ではない風邪などで多くの抗菌薬が使われてきました。計画では、1日あたりの使用量を13年の水準の3分の2に下げることも目標にしています。「使わなくていいところで使わないようにする。それが一番期待しうるやり方だと思います」と大曲さんは指摘しています。
厚生労働省の報告書によると、2016年の抗菌薬の使用量は1804トン。ヒト用は591トンにとどまり、より多くが畜産や農業で動物に使われています。家畜に使われたために、ヒトの治療で重要な薬に耐性菌が生じたとみられる例も過去にありました。業界を越えた連携、対策の強化がさらに求められています。
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2.「老衰はいい最後」は本当か 入れ歯が原因だった例も
10月2日 朝日新聞 デジタル |
老衰によって亡くなる人が増え、昨年はがん、心疾患に続いて死亡原因の3位になった。ほかに大きな病気を抱えることなく逝く老衰には「大往生」といったイメージが強いが、例外もある。本人も家族も納得できる最期を迎えるには、どんなことに備えておくといいのか。
東京都の野村保(たもつ)さんは今年6月、全身が衰えてほとんど食事を口にしなくなった。98歳。10年ほど前に足に血栓ができて血管を人工のものにした以外、大きな病気はなかった。ただし足に力が入らなくなってトイレに行くのもつらくなり、とる食べものや水分の量は徐々に減ってきていた。
訪問診療を担当したえびす英クリニック(渋谷区)の松尾英男院長は、保さんが老衰の状態にあると判断し、家族に説明した。ヘルパーらの支援を受け、同居する長男俊夫さん(64)、妻省代さん(62)を中心に家族が交代して保さんを24時間態勢で見守った。ほぼ寝たきりの状態になっても、声をかけるとうなずき、離れて住む1歳のひ孫が訪れると笑顔を見せ、手を握った。7月下旬の未明、俊夫さんがふと気配を感じて様子を見にいくと、ベッドの上にいた保さんは息をしていなかった。事前に決めていた通り救急車は呼ばなかった。「最期までしっかりと生き様を私たちに見せてくれた」。省代さんは感謝の気持ちをこめて、そう言った。
厚生労働省によると、2018年に老衰で亡くなったのは約11万人で、この年の死因の8%を占めた。減少傾向が続いていた老衰は01年以降は増加し、脳梗塞などの脳血管疾患や肺炎で亡くなる人よりも多くなった。老衰が増えた最も大きな要因は、大きな病気をせずに超高齢まで生存する人が多くなったことと推定される。
死因としての老衰は、高齢者でほかに死亡の原因がない、いわゆる自然死のことをさす。高齢者の場合、細菌が肺に入ってしまって起こる誤嚥性肺炎など、肺炎を伴い亡くなることが多いが、長い時間をかけて徐々に体力が落ち、食べる力が失われた末に肺炎が起きたような場合は、死因を老衰と死亡診断書に記載する医師が少なくない。緩和ケアが伴わないと痛みや苦しみを伴いやすい、進行がんや心疾患に比べ、老衰で亡くなる人の経過は一般に穏やかで、苦痛は比較的少ないと考えられている。長生きをした末であることが多いため、家族も「大往生」「天寿をまっとうした」と前向きに受けとめやすい。
老衰死には「いい最期」というイメージがあるが、必ずしもそうとは限らない。老衰死について研究している東埼玉病院(蓮田市)の今永光彦・内科・総合診療科医長は、老衰とされるケースにはこんな例もあると指摘する。「けがで入院中に体力が落ち、食べる量が減った80代後半の患者。担当医師は老衰と判断した。しかし、在宅に移ってから、別の医師が患者の様子をみたうえで入院中から出ていた抗精神病薬を止めると、患者はすっかり元気を取りもどした」
老衰とみる医師の判断が、正確ではないこともある。今永さんの経験でも、最初は老衰だと思っていたのに、実は入れ歯が口に合っていないためにうまく食べられずに衰えてしまっていた人がいたという。「きちんと診断、対処していれば改善する可能性が高いのに、安易に老衰とみなされ、そのまま死因となってしまうこともある」戦後間もない1947年の老衰による死亡率は、現在よりも高かった。当時は医療技術が不十分できちんと診断をつけられずに老衰とされたケースが多かったという。いまは診断技術は進んだが、病院などでの濃密な検査は、本人にとって苦痛ばかりが大きいこともある。
自分の健康状態をふだんからよく知っているかかりつけ医がいれば、不調となったときの原因が治療すべき病気なのか、加齢による自然な経過なのか判断がしやすい。今永さんは「看護師や理学療法士、言語聴覚士などいろいろな職種の人とかかわっていれば、医師が見落とすこともある『入れ歯が合っていない』などの問題にも気付かれやすくなる」と助言する。
日本老年医学会理事長の秋下雅弘・東京大教授(老年病学)は、「元気なうちから、死が近づいたときにどんな医療を受け、どのように最期を迎えたいか、家族と話し合っておいてほしいと話す。本人の希望を家族がよくわかっていれば、いざというときに落ち着いた選択ができ、効果の割に負担ばかりが大きい治療は避けやすくなる。
老衰で亡くなる人が増えている背景には、心肺蘇生や人工栄養などの延命措置を望まず、病院ではなく自宅で穏やかな最期を迎えたいという人が増えているといった、日本人の意識の変化もあると指摘されている。今永さんの調査によると、死因を老衰と診断するかどうかにあたり、医師は「老衰であることについて家族が納得し、肯定的に受けとめているか」といった点を重視しているという。なるべく自然な最期をという本人や家族の考えが、医師の死亡診断にも影響しているようだ。
老衰と診断されている人の中には、認知症の人がかなり含まれていると指摘されている。認知症の中でも、脳の細胞が壊れていくアルツハイマー病は死亡にもつながる病気だが、日本ではいまのところ、死亡診断書に死因として記載される例は多くないという。
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3.歯科医療費2兆9.712億円に増加 平成30年度医療費の動向
9月26日 厚生労働省 |
平成30年度の医療費の動向(概算医療費)が9月26日、厚労省より公表され、歯科医療費は過去最高を記録した平成29年度を上回る2兆9712億円となり、560億円、1.9%増加した(稼働日数補正後2.0%増)。構成割合は6.9%から7.0%に上がった。1日当たりの歯科医療費は7121円で、143円、2.1%増加。歯科受診延日数は4億1722万日で57万日、0.1%減少した。
医科・歯科。調剤を含めた医療費総額は42兆5713億円で、3397億円、0.8%増えて(稼働日数補正後0.9%増)、2年続けて増加した。
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4.シニアの歯みがき、コツは?フッ素濃度や水の量に注意
9月15日 朝日新聞 デジタル |
食べ物をよくかんで食べるためには年を重ねても歯の健康を保つことが必要だ。厚生労働省が2016年に行った歯科疾患実態調査によると、80歳になっても自分の歯が20本以上ある人の割合が51.2%となり、初めて5割を超えた。「8020運動」の成果が上がっていることを示す結果と言えるが、高齢になると、口の中の環境が変化したり、手や指の機能が衰えたりすることもある。いつまでも歯の健康を守るため、歯みがきをする時にはどんなことに注意をしたらよいのだろうか。
歯を失う2大要因はむし歯と歯周病だ。いずれも口の中が清潔に保たれていないことが原因となる。むし歯ができやすいのは、歯のかむ面の溝や歯と歯の間、歯ぐきの境目、歯の根の部分だ。歯根面は通常は歯ぐきの中に隠れているが、細菌によって歯ぐきに炎症が起こる歯周病が進むなどして歯ぐきが下がると露出する。歯根面は、歯の頭部のようにむし歯になりにくいエナメル質で覆われていないため、露出した場合にはむし歯になりやすい。「公益財団法人8020推進財団」の広報委員で、東京歯科大学客員准教授の高柳篤史さんは「高齢者では歯根面のむし歯で歯を失うリスクがあることを理解して、日ごろから歯周病とむし歯の予防を意識してほしい」と言う。
歯周病を防ぐためには、歯と歯ぐきの間の汚れをしっかり取り除くことが重要になる。例えば、前歯の内側は歯ブラシを縦に持ちかえ、毛がついている歯ブラシの「ヘッド」の先端や後ろ側を使うなど、歯の場所に応じて歯ブラシの持ち方や使う部分を変えてみがくとよい。歯ブラシ選びもよく考えたい。毛先の硬さや形、ヘッドの形や大きさが異なる、様々な種類のものが売られている。
硬さを左右するのは主として毛の太さだ。細いほど軟らかく、太いほど硬いと感じる。細かいところへの届きやすさでは毛先が細く、軟らかいほうが優れ、汚れの落としやすさでは硬いほうが優れている。「軟らかい歯ブラシは汚れを取り除く清掃効率が低いので、時間をかけて歯みがきをする必要がある。逆に硬い歯ブラシは清掃効率が高いが、細かいところに届きにくいだけでなく、歯ぐきなどに過剰な力が加わりやすく、歯ぐきが傷ついて下がることに注意が必要だ。それぞれの特徴を知ったうえで使ってほしい」と高柳さんは話す。
ヘッドが小さい歯ブラシは口の中で操作しやすいが、高齢になって手や指の機能が低下して細かく動かすことが難しくなった場合にはヘッドが大きいほうが汚れを落としやすくなる。歯ブラシを持つ指に力が入りにくい人は柄の太いものを選ぶとよい。むし歯予防にはフッ素濃度の高いハミガキ(歯みがき剤)が効果的だ。ハミガキに含まれるフッ素の配合量の上限は従来1千ppmだったが、厚生労働省が17年に1500ppmを上限とする製品を承認した。
むし歯の予防効果を高めるためには、フッ素を歯面全体に届け、長時間口の中に留める必要がある。①歯ブラシのヘッド(長さ2センチ)の3分の2以上にハミガキをつける②ハミガキが歯列全体にいきわたるように2分間以上ブラッシングする③口のすすぎは少量の水で1〜2回にとどめる④歯みがきは1日2回以上、うち1回は就寝前に行い、みがいた後2時間くらいは飲食をひかえることがポイント。すでに歯ぐきが下がっている人はフッ素入りハミガキでむし歯になりやすい歯根面をむし歯から防ぎ、歯と歯ぐきの間の汚れもしっかりと落として歯周病の進行を防ぐことをこころがけたい。
埼玉、茨城両県の歯科医院で口腔ケアや歯みがき指導をしている歯科衛生士の倉持恵美さんは「口の中の汚れを残さないようにしっかりすすぎたい人もいるが、なるべくフッ素を残すことが大事。最初はハミガキを少しだけつけて、しっかりと時間をかけてみがき、最後の2分間にハミガキをたくさんつけてみがき、最後は軽く1回だけすすぐというやり方もある」と言う。
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