1.50大学病院、医師・歯科医師2191人の給料未払い
6月28日 朝日新聞デジタル |
大学病院で診療をしていながら適切に給与が支払われていない医師、歯科医師が全国50病院に2191人いたと、文部科学省が28日発表した。研究しながら診療もする博士課程の大学院生も含まれ、診療は学位をとるための研究や自己研鎖(けんさん)として、大学が安い労働力として利用している実態が浮かび上がった。
昨年9月時点で、全国99大学の108付属病院で大学院生や医局員として働く医師や歯科医師ら3万1801人の給与や雇用契約の状況を調べた。大学が給与をきちんと支払っていなかった医師のうち、「労働者としての実態が強い」などとして、これまで働いた分もさかのぼって支払われるのは27病院に751人(2%)いた。今後は支払われるのは35病院に1440人(5%)だった。
給与を適切に支払っていなかった理由として、自ら取り組む臨床研究の一環や診療技術の向上が目的と大学側が判断していたケースが大半だった。別の病院から給与が出ているなどとして、今後も払わないとした例も66病院で3594人(11%)いた。
合理的な理由もなく雇用契約を結んでいなかったのは41病院1630人に上った。雇用契約がないと、労災保険の対象とならない場合がある。文科省は2008年、診療に携わる大学院生と雇用契約を結ぶよう求める通知を出し、13年と16年の調査で全ての大学が大学院生と雇用契約を結んでいることを確認していた。
改めて発覚したことに、文科省医学教育課の西田憲史課長は「漏れがあったのは事実。合理的な理由がなく給与が支払われていない場合もあり、労働基準法に違反する可能性が高い。適切な労務管理を指導する」と話す。同省は28日、各大学に医師の適切な雇用、労務管理を求める通知を出した。
大学院生の医師「奴隷じゃない」
多くの医師は医学部を卒業して研修を受けた後、外部の医療機関で医師として働く。だが、大学の教員や病院の管理職になるために博士号の取得を目指して再び大学に戻り、研究しながら診療する医師もいる。
東京都内の大学病院で診療にあたる30代の大学院生の男性医師は、平日の午前8時半~午後5時と土曜日の半日が「勤務時間」だ。大学とは雇用契約はなく、給与はもらっていない。学生の指導名目の月数万円や当直手当は受け取っている。大学病院での診療が割り当てられていない時間に大学から決められた別の医療機関で週3回働くだけでは妻子を養えず、大学には内緒で休日に月4,5回、外部の病院で当直をして約20万円を稼いでいる。男性は「奴隷労働は望んでいない。患者のために他の医師と同じように仕事をしているのに、自分だけが労働者として認められないのは屈辱だ」と訴える。
一方で「他病院での高額なアルバイトを医局から紹介してもらっている」と明かす大学院生も多い。1日で10万円以上の収入があるアルバイトもあり、年収が1500万円を超える人もいるという。労働問題に詳しい松丸正弁護士は「医師は使命感や高い技術を身につけたいという思いがあり、長時間労働に陥りやすく過労死や過労自殺につながりやすい。医師の使命感に乗じた無給医は究極のサービス残業で、今の時代には許されない」と指摘する。
適切に給与が支払われていない医師、歯科医師数が多かった大学病院(カッコ内は調査対象者数) |
① 順天堂大学順天堂医院 |
197人(430人) |
② 北海道大学病院 |
146人(610人) |
③ 東京歯科大学水道橋病院 |
132人(213人) |
④ 岩手医科大学病院 |
123人(243人) |
⑤ 昭和大学歯科病院 |
119人(119人) |
⑥ 愛知学院大学歯学部付属病院 |
118人(118人) |
⑦ 杏林大学病院 |
95人(429人) |
⑧ 大阪歯科大学病院 |
94人(175人) |
⑨ 山口大学病院 |
94人(253人) |
⑩ 東北大学病院 |
94人(253人) |
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2.医師と歯科医16人処分 収賄やわいせつ致傷など 厚労省
6月27日 時事通信社 |
厚生労働省は27日、医道審議会医道分科会の答申を受け、刑事事件で有罪が確定するなどした医師9人と歯科医7人の計16人に対する行政処分を決めた。発効は7月11日。
納入業者から約940万円分の利益供与を受けたとして、収賄罪で実刑となった京都大大学院薬学研究科元教授の辻本家三医師(66)=東京都世田谷区=は業務停止2年とした。女性にわいせつな行為をしてけがをさせたとして、強制わいせつ致傷罪で有罪となった橋本隆志歯科医(44)=滋賀県草津市=は免許取り消しとなった。他に、医師7人が1カ月~3年、歯科医4人が3カ月~2年の業務停止となり、医師1人と歯科医2人が戒告処分を受けた。
分科会には20人が諮問されたが、4人については厳重注意にとどめた。
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3.患者対応、副業で磨く 高松の歯科診療所の衛生士
6月26日 日本経済新聞 電子版 |
医療界で働き方改革の取り組みが進むなか、高松市の歯科診療所「みき歯科三越通りクリニック」は歯科衛生士らに副業を積極的に促している。会社員など異業種との交流を通じて、患者とのコミュニケーション能力を磨いてもらうのが狙いだ。産業界でも副業の推進はまだ少数派だが、いち早く副業推進へとかじを切って患者の満足度を高める。
同クリニックで働く歯科衛生士の市原真由美さんは、運勢を知る上で日本でなじみが深い「九星気学」の講師という肩書も持つ。休日は会社員、経営者、主婦など20~70代の様々な年齢層の人に九星気学を教えている。副業の経験があればこそ、市原さんは「患者さんとの話題に事欠かない」と笑顔で話す。同クリニックでは、受付を担当している女性も高松市内でフラダンスを教えている。2018年8月 に、就業規則において副業を認めることを明記した。
リクルートキャリア(東京・千代田)が18年9月に実施した調査では、副業・兼業を推進している企業は3.6%、容認は25.2%だった。社員の副業に積極的な企業はまだ一部にとどまるなか、歯科診療所が就業規則に明記してまで取り組むのは、いくつか理由がある。
一つが歯科診療所を取り巻く環境の厳しさだ。厚生労働省の調査によると3月末時点で歯科診療所は全国に約6万8500施設ある。一方、日本フランチャイズチェーン協会の集計をみると同時期のコンビニエンスストアは約5万5800店。歯科診療所はコンビニより多く、過当競争が指摘されている。こうした状況を踏まえると、患者の満足度を高めていく必要がある。三木武寛院長は「どんな仕事でも、得られるものはある。歯科治療の現場に生かす熱意があれば、副業を認めている」と話す。歯科衛生士などの人材確保でもプラスに働くと考えている。
三木院長は香川県内では珍しい「日本障害者歯科学会認定医」を取得している開業医で、様々な事情で通常の治療を受けられない患者を専門としている。発達障害や歯科治療を怖がる患者が多く訪れる。治療を嫌がるなどの患者対応として行動調整法という専門的なアプローチの仕方はあるが、人と人とが向き合う以上、医療者の人間力が問われる。だからこそ、副業を通じた人材育成に期待を寄せる。
厚労省によると16年度の歯科診療医療費は2兆8574億円。国民医療費に占める割合は6.8%にすぎないが、決して小さな金額ではない。医療はサービス業ではないが国民負担が発生している以上、患者満足度を高める取り組みはより一層、必要となる。
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4.子どもの手足口病、急増 九州・関西で警報レベル
6月25日 朝日新聞デジタル |
口内や手足に小さな水痘(すいほう)ができる手足口病の患者が子どもを中心に増え続けている。全国約3千の医療機関が報告した直近1週間(10~16日)の小児患者数の合計は1万2707人で、この期間としては過去10年間で最も多かった。前週の1.44倍になった。専門家は、子ども同士でタオルを共用しないなど予防するよう訴えている。
国立感染症研究所によると、患者の発生が特に多い都道府県は、佐賀(1医療機関あたり平均16.91人)、福岡(同15.66人)、鹿児島(同12.76人)。大阪(同10.05人)や京都(同6.30人)などでも警報レベルの5人を超え、東京は前週の1.7倍超の同1.65人だった。
手足口病はウイルスを含んだ患者のせきやくしゃみ、水庖の内容物を吸い込むことで感染する。治った後も2~4週間にわたり便にウイルスが排泄(はいせつ)されるため、排便後の手洗いが不十分だと他人にうつすおそれがある。4歳以下の子どもが感染しやすく、患者の半数は2歳以下だ。微熱を出すこともあり、症状は3~7日間で治まることが多い。まれに髄膜炎や脳炎になることもある。
患者数は例年夏にかけて増えている。感染症に詳しい、川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長は「しっかり手洗いするとともに、ペーパータオルや自分のハンカチを使ってほしい」と話している。
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5.社会保障、負担議論先送り 骨太方針を閣議決定
6月21日 日本経済新聞 |
政府は21日、経済財政運営の基本方針(骨太の方針)と成長戦略を閣議決定した。全世代を通じた社会保障を掲げ、70歳までの就業機会確保や就職氷河期世代の支援などを打ち出した。ただ参院選を控え、医療費などの負担増につながる議論は2020年度に持ち越す。解雇規制の緩和といった反発のあるテーマも避けた。
政府が毎年夏にまとめる骨太の方針と成長戦略は、年末に向けた予算編成の土台になる。安倍晋三首相は21日夕の経済財政諮問会議で「経済の回復基調を持続させ、経済財政運営に万全を期していく」と強調した。
2019「骨太の方針」のポイント
70歳までの就業の選択肢を確保
地銀・バス統合促進へ独禁法の適用除外
就職氷河期世代の正規濯用者を30万人増
最低賃金はより早期に全国平均1000円
データ取引の透明なルール整備
消費税率10%に引き上げ
社会保障の見直し20年度の骨太方針で
今回の骨太方針は10月に消費税率を8%から10%に引き上げることを改めて確認した。経済状況を踏まえて20年度予算で「適切な規模の臨時・特別の措置を講ずる」とも明記。さらに米中摩擦などで不透明な海外経済の先行きを念頭に「機動的なマクロ経済政策をちゅうちょなく実行する」として、追加の経済対策に向けた布石も打った。
中期的に内需を下支えするための所得向上策も盛り込んだ。30歳代半ばから40歳代半ばの就職氷河期世代を3年間で集中的に支援し、この世代の正規雇用者を30万人増やす。最低賃金は目標としている全国平均1000円を「より早期に」実現するとした。
少子高齢化が加速するなかでの社会保障は「全世代型」と銘打って、70歳までの就業機会を確保する法整備の方針を示した。短時間労働者への年金・医療の保険適用拡大や、働く高齢者の年金を減額する在職老齢年金の見直しも盛った。当面の経済政策に腐心する一方、参院選を控える局面で抜本的な構造改革や政策論争を避けた印象がぬぐえない。ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次チーフエコノミストは「賛否が割れる問題をほとんど盛り込んでいない。政権維持に向けた分配政策に偏っている」と指摘する。
社会保障改革の本丸の論議は遅れている。19年は5年ごとの年金財政検証の節目にあたるが、まだ公表されていない。後期高齢者の医療費なども含めた社会保障全体の給付と負担の見直しは18年末にまとめた工程表に沿って、20年度の骨太方針でまとめるとの既定路線の記述にとどまった。
最低賃金についても、議論の過程で浮上していた具体的な年率目標を明示するには至らなかった。最賃の引き上げは中小企業などに生産性の向上を促す取り組みのはずが、中小企業の反発を考慮して書きぶりが暖昧になった。成長戦略でも、経済界が要望する解雇規制の緩和のような踏み込んだ取り組みは乏しい。
第2次安倍政権が初めてまとめた13年度の骨太方針は22年度までの10年間で平均2%程度の実質成長率を実現する目標を掲げていた。これまでのところ潜在成長率は1%前後に低迷したまま。実際の成長率も14~16年度の3年間、潜在成長率との差である需給ギャップがマイナスに沈むなど低空飛行が続く。
日本総合研究所の山田久理事は「全体の方向性は間違っていない」と今回の骨太方針を評価する一方で実効性を問題視する。「昨年の骨太で打ち出された『学び直し』も具体的にどう進めていくのか1年間で詰められていない」。7年目を迎える長期政権。改革の推進力が改めて問われる。 |