1.歳出抑制へ都道府県別に「医療費下げ」財務省が改革案
4月10日 日本経済新聞 |
6月にまとめる政府の新しい財政健全化計画を巡り、財務省は計画の柱となる社会保障費の抑制策の議論に入る。11日に開く財務相の諮問機関、財政制度等審議会に中長期的な改革案を示す。病院や薬局などの医療機関が医療行為や薬の対価として受け取る「診療報酬」の設定について、全国一律となっている現行制度を都道府県ごとに設けるよう自治体に促す。
政府は税収や税外収入で政策経費をまかなえているかを示す国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を2020年度までに黒字化する従来の計画を撤回した。新しい計画ではPBの黒字化目標をいつに設定するかが焦点だ。とりわけ、団塊の世代が75歳を超える25年にかけては社会保障費のさらなる膨張は避けられない。財務省や厚生労働省などは新計画に盛り込むため、予算を効率的に配分して歳出を抑える具体策の検討に入る。財務省が11日に示す案では、厚生労働相や都道府県知事が特例で決められる「地域別診療報酬」の活用を打ち出す。先行して導入を議論している奈良県の取り組みを全国展開することをめざす。
診療報酬は公的医療保険で受けられる医療サービスの一つ一つに定められた公定価格。全国一律の価格が原則だが、法律上は都道府県が独自に報酬を設定することができる。点数制で表示され、1点は10円で換算する例えば1点10円となっている報酬を9円とすれば、医療費は10%削減できる。ただ、一部の地域だけ報酬を下げれば医療関係者の反発を招きかねず、どこまで動きが広がるかは見通せない。外来患者に受診するごとに一定額を支払ってもらう定額負担制度の導入も論点だ。現在は紹介状がなく大病院を受診した場合には5千円以上を医療費に上乗せして負担することになっているが、この仕組みの対象を大幅に広げるものだ。受診抑制を通じて患者の状態の悪化につながる可能性もあるため、慎重な議論を求める声も根強い。
新しい薬や医療技術を自動的に保険適用する仕組みを見直し、費用対効果を踏まえて判断する必要性も訴える。市販薬と同じ成分の一部医薬品を保険の適用から除外することもテーマになる。訪問介護サービスの適正化も進める。特に平均を上回る利用が問題視されている生活援助サービスに焦点を当てる。生活援助は介護が必要な高齢者の家を訪問し、掃除や調理、買い物など身の回りの世話を行う。平均は月10回程度の利用だが、100回前後使う利用者もおり、規制の必要性が指摘されている。
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2.口腔ケアと健康 その1 がん治療、院内歯科と連携
4月4日 毎日新聞 |
口とがん治療。ピンとこないかもしれないが、近年の調査研究で、口腔(こうくう)ケアとがんを含めた全身の健康には密接な関係があることが分かってきている。だが病気になると、歯や口のことはこの次になりがちだ。医療や介護の現場での取り組みを、2回に分けて報告する。
術後の合併症予防などに効果
「ランマークって書いてありますけど、歯科は通してますか?」。大阪国際がんセンター(大阪市)で週1回、主に口やのどのがんを扱う頭頸(とうけい)部外科の治療方針を話し合うカンファレンスで、歯科の石橋美樹副部長が担当医に尋ねた。「ランマーク」は、骨に転移したがんの進行を防ぐための薬剤だ。これを投与した後に抜歯をすると あごの骨が腐る危険がある。投与前に歯の状態をチェックし、必要なら先に抜歯しておくのが望ましい。口腔外科専門医資格を持つ石橋副部長と歯科衛生士2人という陣容の歯科が院内に置かれたのは、昨年4月。頭頚部外科の藤井隆主任部長は「設置効果は絶大。放射線治療や手術などの際には口の状態をしっかり管理することが大切だが、急な対応も可能になった」と話す。何よりがん治療チームの一員として、患者の情報を共有できるのが最大のメリットという。
歯科の関わりは、頭頚部のがんだけではない。全身麻酔手術では気管内にチューブを挿入するが、口の中の汚れが肺に押し込まれると肺炎の原因になる。抗がん剤治療をすると、口の中が荒れて食事が取りにくくなるほか、抵抗力が落ちて虫歯や親知らずなどから菌が入り込み、命に関わることもある。院内歯科が置かれる前は、手術前に歯科治療の必要性の高い患者だけ近隣の歯科医院に行ってもらっていたが、予約や治療に時間がかかると、がん治療の開始が遅れる要因にもなっていた。「一番不利益を被るのは患者さん。口が原因でがん治療が止まることはあってはならない」と石橋副部長は話す。
センターの看護師は独自に口腔ケアを学んで対応してきたが、2013年にオーラルケアチームが置かれ、看護師、薬剤師と非常勤の歯科衛生士が週1回、肺炎のリスクの高い患者や放射線治療を受けた患者らの病棟巡回を始めた。歯科設置後は、巡回の情報を担当医や石橋副部長も共有し、医科と歯科の連携に万全を期す。地域の歯科医との連携にも力をいれる。石橋副部長によると、医科と歯科では、それぞれでは当たり前の略語が通じなかったり、文章だけでは依頼の意図がうまく伝わらなかったりすることがあるという。「在宅に移行した患者を診る地域の歯科医と、病院の医師の橋渡しが必要。つなぐのが病院歯科の役割だ」と話す。
地域ぐるみで協力も
厚生労働省の調査によると、全国の病院のうち、掲げる診療科目の中に歯科系がある施設は約2割にとどまる。院内に歯科がない病院では、地域の開業歯科医との連携が入院患者の口腔ケアに大切になってくる。この取り組みで成果を上げているのが、山梨県甲州市の塩山市民病院だ。連携は約10年前から始まった。地域の歯科医は、かかりつけで診ていた患者が病気になって入院すると、歯科治療が中断されるという悩みがあった。退院に向けた食生活の支援にも、入院中からの口腔リハビリが欠かせない。「空白期間をどうすればなくせるか」と模索していたところ、市民病院の多和田員人副院長(現院長)が理解を示してくれた。
ただ、病院の医師は、地域のどの歯科医に協力を頼めばいいか分からない。そこで歯科医師会の世話役で、口腔ケアに詳しい中村弘之さんが中心となって開業歯科医を紹介することになった。病院の看護師が必要と判断すれば、院内の口腔ケアチームを通じて歯科医師会にマッチングを依頼する。現在は地域の7割の歯科医が連携に加わっている。
市民病院のエレベーターには、歯科医や歯科衛生士が院内に出入りすることを知らせ紙を貼った。半年前からは歯科医や歯科衛生士が訪問する患者のベッド脇にノートを備え、歯科医らと看護師の情報共有がより緊密になったという。角田千春・総看護師長は「歯科を受診していない人の相談も気楽にできるようになった。また、以前は入院患者の容体が悪いと歯科衛生士にはケアに入るのを遠慮してもらっていたが、今は終末期でも口をきれいにしようという考えに病院が変わってきた」と、連携の効果を訴える。
入院日数短縮で医療費抑制 報酬改定で後押し 厚労省
がんなどの手術前後に行う口腔ケアには、12年度の改定から診療報酬が付くようになった。千葉大病院などの先進的な取り組みから、誤嚥(ごえん)性肺炎などの合併症を防ぐ効果があることが分かってきたからだ。それ以前は口腔手術の入院患者に限って点数が付いたが、12年度以降はケア計画の策定、入院中と前後のケアなどが、それぞれ評価されている。導入後の厚労省調査(13年度)では、院内歯科のあるなしに関わらず約7割の医療機関が、口腔ケアが手術後の感染症予防に「役立った」と回答している。入院日数の短縮に役立ったとする評価も2〜3割あった。実際、千葉大病院の04〜13年の実績では、歯科口腔外科、心臓血管外科、消化器外科などで、口腔ケアをした患者の入院日数が短くなり、短縮効果は1割以上だとの結果が出た。入院日数が減れば、医療費抑制にもつながる。
手術前後の口腔ケアは、その後も2年に1回の診療報酬改定のたびに対象者や報酬が拡充されてきた。ケア計画の策定回数は右肩上がりで、導入時の3579件から16年度には1万7495件に増加。16年度の9割以上は院内歯科での取り組みで、歯科診療所は4%あまりにとどまるが、前年度の1.8倍に増えている。
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3.歯周病菌、認知症との関係に注目 九州大が研究
4月4日 朝日新聞 |
数百種類の細菌がいるとされる口の中。細菌が歯ぐきのすき間にたまり、炎症を起こすと歯周病になる。進行すると、すき間の溝が深くなって「歯周ポケット」ができる。
中等度以上の歯周病とされる4ミリ以上のポケットがある人は、厚生労働省の2016年の調査によると、30代で3割超、50代は半数いた。歯周病の原因は酸素を嫌う「嫌気性菌」。空気が届きにくい歯周ポケット内でどんどん増え、最悪の場合は歯が抜けてしまう。歯周病菌は様々な病気を引き起こす。気管に入れば肺炎、血液に入れば糖尿病になりやすい。近年、注目されているのが認知症との関連だ。
九州大のグループが昨年発表した研究では、人でいえば中年の生後1年のマウスにジンジバリス菌という歯周病菌の毒素を5週間注射すると学習・記憶能力が低下。脳に炎症が起きアルツハイマー病の原因となるアミロイドβというたんぱく質がたまっていた。歯周病菌がアルツハイマー病のような症状を起こすと考えられるという。
同大歯学研究院の武洲(たけひろ)准教授は「歯周病予防が認知症予防にもつながる可能性がある。歯磨きや定期的な歯科受診が大事」と話す。
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4.国民健康保険、財政見直しスタート 変わらぬ構造的問題
3月31日 朝日新聞 |
国民健康保険(国保)の財政改善に向けた見直しが4月にスタートする。運営主体は市区町村から都道府県に移り、巨額の支援金も投じられる。54%の市区町村で保険料の軽減につながる可能性があるが、国保の構造的な問題は変わらず、医療費の抑制といった取り組みも求められる。
北海道北部の初山別(しょさんべつ)村。2016年夏、当時の約700戸すべてに「国保会計がピンチです!」と書かれた村の広報紙が配られた。村の国保加入者は約350人。難病などで高額な医療費がかかる患者が増え、財政が悪化。過去の保険料でためた約1億円の基金を取り崩してしのいできたが10年間でほぼ底をついた。加入者が払う保険料は16年度で1人平均月8931円。低年金の高齢者らが多いなか、保険料の値上げは簡単ではない。そこで村は一般会計から16年、17年に税金を約2500万円ずつ投入した。国保に加入していない人も含め、村民1人あたり約4万円の負担だ。担当者は「小さな村では医療費の急増などに対応するのは難しい。都道府県への移管は歓迎だ」と話す。
国保の運営がすべての市区町村に義務づけられたのは1961年。被用者保険に入る会社員ら以外をすべて加入させることで、国民皆保険の土台になった。それから半世紀以上すぎ、財政の運営主体を都道府県に移すのは、加入者の中身が変わったことが大きい。当初の加入者は自営業者や農家らが多かったが、今では年金暮らしの高齢者や比較的所得の低い非正規社員らが加入者約3千万人の8割を占める。その結果、国保財政は悪化。赤字の総額は年約3千億円にのぼり、自治体は一般会計からの繰り入れで補っている。特に小さな市区町村は医療費の増減が激しく、財政が不安定だ。都道府県への移管で財政の「財布」を大きくすることで、こうした変動を抑える効果が期待されている。
一方、課題もある。今は市区町村によって1人あたりの医療費の差が大きく、赤字の穴埋めにどれだけ税金を使っているかも違う。それが市区町村ごとの保険料の差をうんできた。厚生労働省は、今後はできるだけ税金での穴埋めは控えるよう呼びかけ、「将来的には都道府県内の保険料率が統一されるのが望ましい」としている。医療を受ける値段はどこでも同じだから、同じ所得なら同じ保険料であるべきだとの考え方だ。奈良県や大阪府などは統一を目指すと表明している。ただ、統一を急げば、いま保険料が低い市区町村で、保険料が急増する懸念がある。
また、4月から国保財政の強化に年3400億円の公費が投じられるが、それで赤字体質が抜本的に改善されるわけではない。加入者に低所得者が多いなどの構造的な問題は変わらず、今後も高齢化などで医療費は膨らむ見込みだからだ。このため厚労省は、医療費そのものの抑制にも力を入れていく。投入する公費を使い、予防や健康増進に積極的な自治体に多くの交付金を配る制度を本格的に始める。中央大学の新田秀樹教授(社会保障法学)は「無駄な給付をやめたり、能力に応じて保険料負担を増やしたりするなど、痛みの分配も避けて通れない」と指摘する。
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5.オプジーボ適応拡大 食道がんなど4種追加申請へ
3月17日 日本経済新聞 |
小野薬品工業はがん免疫薬「オプジーボ」について、2018年度に新たに4つのがんで厚生労働省に適応追加を申請する。オプジーボは高価という批判を受けて大幅に薬価を引き下げられた。適応範囲を広げて単価の下落を補う。政府は薬剤費を削減するため薬価の適正化を進めており、製薬各社は収益を確保する対策を迫られている。
相良暁社長が日本経済新聞の取材で明らかにした。オプジーボは17年、薬価改定を前に急きょ半額となった。今年4月の改定で再び24%下がるため「販売数量増で補う」(相良社長)としている。皮層がんの一種、悪性黒色腫(メラノーマ)治療薬として14年9月に販売を始めたオプジーボは15年12月に非小細胞肺がんの適応が認められた。その後も腎細胞がん、血液がんの一種、頭頚部(とうけいぶ)がん、胃がんで認められ、6種類のがん治療に使われている。今年1月に腎細胞がんで別の薬との併用療法の適応を申請済み。18年度は食道がんや肝細胞がん、小細胞肺がん、併用療法の非小細胞肺がんで追加適応の申請を目指す。相良社長は「18年度末にも一部が承認される可能性もある」と話した。
国立がん研究センターによると17年のがんの死者数のうち肺がんは7万8000人。食道がんが1万1300人と推定されている。かねて使用される肺がんでも新たな適応申請が認められれば利用者は大幅に増える。オプジーボは100ミリグラム73万円の価格が高すぎるとして17年2月に半額に引き下げられた。小野薬品は18年3月期の純利益を前期比23%減の430億円と予想している。
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